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JICAインドネシア森林火災予防計画におけるLMF処理
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〈活動内容報告〉
   
1背景
 昨年の短期専門家活動(2001年1月2〜31日)に引き続き、早期警戒システムの改善を行う。昨年の活動においてChuvieco.Eによる短期火災危険度指数(FSRI:Fire Spread Risk Index)による火災危険度算出システムの作成を行った。検証の結果、沿岸部の雲の影響が少ない地域では、火災危険度指数の示す危険の増加と地上のプランテーション開発のための大規模な野焼きが一致して発生していることが確認された。そのため指標としての有用性が期待できることが分かった。
 この手法を応用して、スマトラ・カリマンタン全島をカバーした火災延焼危険度地図の作成を試みた。しかし雲、ヘイズ、また衛星データ受信時のノイズなどのため、実用に適さない結果しか得られなかった。
 このような状況から、火災危険度指数をインドネシアで利用していくためには、衛星データから雲の影響を除去し、的確な植生変動を再生するための時系列フィルタリング処理が必須であると判断した。
 本年度の短期専門家活動では、早期警戒のために必要な時系列フィルタリング処理を本プロジェクトの資源を有効活用しつつ実現し、いくつかの火災危険度算出手法を試み、実用性を検討する。またそのために必要なソフトウエアを作成し、手順をマニュアル化する。
 
2 LMF手法の導入
 LMF(Local Maximum Filtering) は、独立法人 森林総合研究所、農業環境研究所、農林水産技術会議などにより運営されたANDESプロジェクト(地球観測衛星を利用したアジア太平洋地域農林災害情報ネットワーク)により開発された、高頻度地球観測衛星の時系列フィルタリング処理である。この処理は画素毎にモデリングを行い、各時点の衛星データの最も適切と判定された値で内挿を行う。雲やヘイズの影響を取り除き、異常値や欠損値の的確な再生を行う。その結果、従来は時間的に圧縮を行う以外に適切な異常値処理方法の無かった高頻度観測衛星データ(NOAA AVHRR、SPOT Vegetation など)を、時間・空間の分解能を損なわずに利用することが可能になった。.
 
NOAA NDVI データの3年間の変動 → LMFによるモデリング後の変動
NOAA NDVI データの3年間の変動   LMFによるモデリング後の変動
 
 LMF手法導入の問題点として、膨大な計算処理が実行されるため、それに応じた計算処理能力が必要になる点があった。ANDESプロジェクトでは、農林水産計算センタの高性能並列演算計算機 SGI Origin 2000 をLMF処理に使用していた。本プロジェクトには通常のパーソナルコンピュータしかなく、その処理能力の範囲で可能なシステムを構築する必要があった。
 そこで森林総合研究所の協力を得て、新しい処理方式でLMF処理を実現することができた。LMF Lite と名付けられたこの方法は、既にLMF処理されたNOAA NDVIデータと、まだ処理されていないNOAA NDVI データを用いて、全体を再モデリングするものである。
 プロジェクト所有のパーソナルコンピュータに RedHat Linux ver7.2 をインストールし、同システムに同梱されているFortranコンパイラ(GNU G77)によりプログラムを作成した。このプログラムにより、ボゴールで受信したNOAAデータを用いたLMF処理が現実的な処理時間で実現可能となった。5kmメッシュにリサンプルしたNOAA NDVIデータを処理したところ、スマトラ全島(LMF処理済み19990101〜20010121、未処理20011201〜20020201、251行243桁)で3時間40分、カリマンタン全島(データ期間はスマトラと同一、262行243桁)で4時間12分で完了した。今後、データが追加されるに従って、処理時間は長くなると予想される。
 
LMF Lite処理前 LMF Lite 処理後
LMF Lite処理前 LMF Lite 処理後
 
LMF Lite 処理結果の例を上に示す。スマトラ島の画像を赤:19990101、青:19990111、緑:19990121 で疑似カラー合成したものである。処理前は各シーンで観測欠損部分(19990111、1990121)が著しいが、処理後はモデリングの結果欠損部分が補完されているのが分かる。
 
   
 
 同一カラー合成でスマトラ島南部を拡大してみると、処理前は地上の植生状況よりも雲の被覆状況や受信ノイズが目立っているが、処理後は植生状況が適正に再生されている。また植生のみならず、河川や都市域(ジャンビ、パレンバンなど)が低植生指数値を示すため、明確に位置・形状が把握できるようになっている。
 
3 FSRIによる危険度評価手法の再検討
 LMF Lite 処理されたNDVIデータと、本プロジェクトの受信ハード・ソフトウェアを用いて作成された陸域表面温度値を用いてFSRIを算出した。
 スマトラ島の算出結果をチェックしたところ、Cuhuvieco の評価基準では、火災危険度を過小評価する危険があることが懸念された。Chuvieco の場合、1つ前の指数値と比較して減少している場合は危険(Risky)と評価していた。しかし連続した流れとしては減少傾向を示していながら、1データのみ、微少な上昇を示す場合、または同一値を示す場合は、危険は検知されなくなってしまう。
 本プロジェクトは実用的な防災プロジェクトであることを考慮すると、危険の過小評価は避けるべきである。そこで2時期の変動ではなく、3時期の変動パターンより危険度を評価、数値化する方法を考案した。以下にマトリックスを示す。
 
(最新のデータをLatest 、最新より2時期前のデータを便宜上B2と表記してある)
Risk Point Assessment Change pattern of FSRI
1 Neutral Continue to increase
2 Low Risk No change
Increse : B2 to Latest
Contains FSRI:0 on 1 data,rest data show increase
3 Midium Risk Decrese : B2 to Latest
Contains FSRI:0 on 1 data,rest data show decrease
Contains FSRI:0 on 2or3 data (unable to assess)
4 High Risk Continue to decrease
 
4 火災危険度地図の作成
  前述 3 の評価基準を元に、火災危険度の地図化を行った。
 
   
19990201   19990301   19990401
 
   
19990501   19990601   19990701
 
 
19990801   19990901
 
 
5 火災危険度地図の評価
 本年1月31日より2月にかけ、数度にわたりリアウ州海岸部で密集したホットスポットが観測された。SPOT衛星画像やひまわり画像より、大規模な開発のための野焼きが行われていることが確認された
 
 
SPOT画像20020216(CRISP Quick Look)    ひまわり画像 20020212
  
  赤丸 0201のホットスポット    
  白丸 0214のホットスポット
そこで火災延焼危険度地図による乾燥状況の変動との照合を行った。
 
   
20011221   20020101   20020111
 
   
20020121   20020201   20020216
 
SPOT画像より、最も広い範囲で焼き払われている地点は約5ku程であると推測された。
これらの情報より、リアウ州での野焼きは、典型的な農園開発であり、樹木を切り倒した後、一定期間乾燥するのを待ち、焼き払ったものと考えられる。
 この最も広く焼き払われている地点(5ku)のFSRI値は、12月〜1月中旬までは減少し続けていることが分かり、FSRI値により乾燥が進んでいく状態を的確に捉えられていることが分かる。
 また危険度地図の数値が最高危険度を示し続けていることから、今回考案した危険度評価方法も効力を有するものであると言えよう。
 また1月は雨季のため、多くのNOAAデータではホットスポットは検出不能であった。それにも関わらすFSRIは延焼の危険性を示していた。このことは LMF Lite による雲の下のNDVI変動が的確に再生されており、今後ホットスポットが得られない時期でも、プロジェクトとして有用な情報を提供できることが期待できる。
 さらにFSRIまたは危険度地図をモニタリングすることにより、大規模な焼き払いが行われる可能性を推測できる。現在プロジェクトで使用している土地利用区分のGISとの複合的な解析により、開発を行う企業の動向予測なども可能となると考えられる。
 
6 相対植生指数による危険度評価
 他の熱帯地域(タイなど)では、LMFによる相対植生指数により、火災危険度評価が行われている。
 今回の活動で、この解析のためのプログラム開発と試行的な解析を行った。
 結果として、インドネシアでは、季節変動パターンの違いから、手法として不適切であると判断した。季節林や乾燥地帯では、最もNDVIが下がった場合に、植生や地表面の乾燥が進み、その結果可燃性が最も高くなる。しかしインドネシアの場合、変動として雨季に最もNDVIが低くなるため、降水量が最も多い時期が最も危険度が高いと判定されてしまう。
 今回開発したプログラムのうち、任意の数のラスターデータから統計値(最大、最小、平均値)を求める処理など、汎用的なものも含まれるので、プロジェクトに提供する。
 
7 雲非被覆による危険度地図化の検討
 雲の非被覆は、人為的な着火の意志決定に関して誘因となると考えられ、この情報は衛星データからも得ることが可能である。また日々更新、変化する情報として、人為着火の傾向を推定する可能性を有していると解釈できる。
 今回NOAAデータより、この雲非被覆危険度を算出するプログラムも作成したが、検証のための時間は無くなってしまった。
 予想される問題点として、
●1日のうちで、着火の意志決定に最も影響する時間帯の雲被覆で処理することが望ましいが、NOAAデータでは観測時間は一定ではない。
● 雲の下が降雨かどうかが分かれば情報としての有用性は格段に向上すると思われるが、現段階ではそのような情報を得ることは難しい。
この手法は、将来MTSATの情報を本プロジェクトで受信、処理をはじめた後に、再度検討するべきであろう。
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